準備が終わると、私と亮くんはすぐに出発した。時刻は正午、太陽がアスファルトを焦がし、外にいるだけで汗が流れそうになる。
蝉の声を聴きながら駅へ向かう。その間、他愛もない話を沢山した。
この前とは大違いだった。
あの時は周りに一人でも人がいれば話してくれなかったけれど、今は周りに一人か二人歩いているくらいなら話してくれる。
やっぱり段々と心を開いてくれているんだ。
実感が湧くと、ものすごく嬉しくなる。
「車には気をつけて歩いてね」
「轢かれた人に言われたくないんだけど」
「だから言ってるんだよ。戒めだよ」
「凄い説得力」
そんなくだらない会話をしながら切符を買い、電車を待つ。この前とは反対方面の列車だ。ここからなら二駅くらいで着くと思う。
電車に揺られ、病院の最寄り駅に到着すると、見覚えのある景色ばかりで何だか懐かしくなった。まだ地元を離れて一週間だというのに。
「ここからなら私が案内できるよ」
「ん、よろしく」
亮くんの住んでいる地域と同じように、この地区も昼間は人通りが少ない。
一軒家やアパートだらけで、商業施設と言えばコンビニかスーパーくらいのものだ。だから退屈することなく雑談を交わしながら歩くことができた。
病院に着き、私のいる病室へ足を運ぶ。
一人用の小さな個室。その目の前に来ると、私は大きく息を吸った。
寝たきりの自分の顔を見るという普通ならありえない経験をするのだから緊張するのは当然だ。死んでいたらどうしようとか、色々不安になってくる。
「失礼します」
亮くんは病室のドアを軽くノックし、静かに戸を引く。