「タイミング逃しちゃって、そのままだったから」

「……タイミング?」

「謝るよりも先に身体の方が心配で。それで」

「で、このタイミングですか?私はてっきり」

「先週のこと、謝ってくれるだろうって?」


にわかに動悸が高まる。
カコンと、水が再び止まる音がして、とっさに俯く。

タイミングなんで言葉を使われたものだから、先週のことが思い出されて口走ってしまった。
タイミングなら、私も逃した。
あなたのせいで。

ぐっとスクールバッグの柄を握る手に力が入る。

そうだ。
謝るなんて言うから、あの時のことを謝ってくれるかと思った。
だって昨日言ったじゃない。

止める気はないって。
恋人でも、友人でも、家族でも。

謝ってくれたらもう邪魔されないとわかって、私は前に進めるのに。

ノズルから溢れた水がポタポタ垂れて、弘海先輩の革靴のつま先をぬらしているのが見えた。