「どうして？」


語気の強さに思わず竦みあがる。
表情を崩さないまま、その声はささやき声にもかかわらず地を這うような凄みがあって、漆黒の瞳の中で静かに波が立っているのが見えた。


——どうして？


それはこっちのセリフだ。
どうしてあなたはここにいるの？
どうして私の目の前に立ってるの？
どうして突然現れたの？
その上、どうして邪魔したの？

あのタイミングはまるで、私が何を実行しようとしていたか知っていたようだった。
それに、この聞くまでもなく分かっているような口ぶり。
わざわざ聞く必要があって？


「関係ないです」


唇を噛んで、小さく、弘海だけに聞こえるように言い放つ。
弘海先輩の口元がきつく閉まったのが分かった。