高校生特有の幼さや、あどけなさの一切抜けた、葛西弘海先輩。
蛹から蝶へ変貌を遂げるように、彼のまとう雰囲気は、高校生の私にはまだないそれで、私はますます困惑する。

弘海先輩が、どうしてこんなところに。

電車が次の目的地に停車すると、バランスを崩した私は弘海先輩の方に倒れた。
学校の最寄りの駅まであと五つ。
再び乗り込んで来る乗客に押されながら反対側の扉まで流され、またドアを背に立ち、俯いた。

先ほどまでの出来事を思い出しては、かぶりを振って、かき消そうとした。
弘海先輩は県外の大学に進学して、まだ大学三年生のはず。
私より三つ上なだけだから、就活もきっとまだ。
リクルートスーツを着てここに立っているはずがない。

だからきっと、見間違い。

けれどそんな願いも虚しく、トンと私の顔の横に誰かが手をついた。
目の前には変わらず弘海先輩が立っていて、温度のない眼差しで私を見下ろしていた。
しっかりと視線を絡められて、逸らすことができない。ただただ見つめ返し、私は息をするのも忘れていた。

その表情はどこか悲しさを孕んで安堵が滲んでいるようにも見えた。
しばらく電車に揺られ、見つめあい、先に開口したのは弘海先輩の方だった。