ぐっと喉元が締め付けられたように、言葉を失う。
かあっと耳元に熱が集まり、ブワッとお腹の底から何かが湧き上がる。
私たちの間で守るもの、といえば、あの目撃情報のこと。
きっとあのメモの内容のことだろう。

それを引き合いに出してくるなんて、姑息だ。


「……脅すんですか?」

「交換条件だよ」


どこが。全く等価交換ではないのに。
答えない私の肘は掴まれたままで。

言い返してやろうと手を振り払って振り返ったが、喉まで出かかった言葉を飲み込む羽目になった。
髪の色の同じ栗色の双眸には、怒りともつかないどこか悲しさが伺えた。
その表情に、私を貶めようなんて感情はひとつも見て取れなかった。


思わぬ展開に、私はただ立ち尽くす。
弘海先輩はそんな私に、またずいっとハンカチを差し出してきた。
前髪から垂れる雫が、目に入って、手の甲で拭う。


ここで断れば、きっと花純先生にあの事実が知られてしまう。
そしたら花純先生は、私が思いとどまるようにとなんらかの形でアプローチをかけてくるだろう。
そうなると面倒だ。
だってこれは私の問題で、他人が介入したところで解決しない。
変な親切心でどうにかしてあげよう、と思われても困る。

それをどこまで信用して、信頼していいのか、分からないから。