こんな普段人も通らないような死角に花園があるとは知らなくて、けれど発見当初はあまり手入れの形跡がなかった。水をやる人も、手入れをする人もいないのか、花たちは元気もなく萎れていた。
せっかく植えられているのに、なんだかもったいない気がした私は、食堂の後ろに立つ一本の水道管の蛇口からホースを引っ張って水をあげた。
すると花はすぐに応えてくれて、日を増すごとに元気を取り戻していった。

その時の興奮と言ったらなくて。
こんなにもすぐに回復してくれるとは思わずに、花々は明らかに元気になっていた。
出来心で水やりをしたはずだが、いつのまにか毎朝の習慣になった。


それから高校三年生の今まで続けてきたけれど、私はそれをも放棄しようとしていた。
昨日は結局水をあげなかったが無事だっただろうか。
ずんずん、B棟の建物に沿って歩いていく。
隣のC棟の方からは賑やかな声が聞こえてくる。
化学室隣の化学ゼミはとっくに電気が付いていて、水の音が聞こえてきた。
助手さんが危惧を洗うのよりももっと鮮明に聞こえる。外の方。

花壇に、誰か先客がいる。

角を曲がる前に、立ち止まって呼吸を整える。
普段通り、いつも通り。
胸の中で唱えて建物の死角に入ると、人影がひとつ朝陽を浴びていた。