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——『明日、四時、出水駅前』
私が中学三年生の初秋。夏休みが終わって少しした、まだ太陽の熱い日。
一度だけ弘海先輩と校外で待ち合わせて、出かけたことがあった。
面白い場所があるから行かない? と誘われて、あの頃は他人の機嫌を損ねるのに最新の注意を払って、流されるように生きていたし、特に断る理由もなかったので二つ返事で了解した。
出水駅は私の最寄から一回乗り換えを経て30分の駅。郊外からも学校からも離れた場所にある。
駅周辺は何もないわけではないが、比較的静かな街だ。自転車で悠々と道路を走れるような場所。川も流れていて、山も見えるし、田んぼもあり、都心に比べて空気も少し違う。
駅を降りてしばらくは大通りに沿って歩く。そこから外れて閑散とする住宅街を抜け、ある一本の横道に入る。人通りも車通りも少ない緩やかな坂道をどんどん登ると、木々の生い茂る薄暗い通りに入り、コンクリートの道が苔むした石畳になって、傾斜も少し急になる。そのまま歩みを進めていくと、景色が、空気が変わる。木々の作るトンネルからは外が一切見えない。視界を覆うのは木々の緑と、足元の石畳だけ。
土の匂いと、草の匂いと、水の気配、鳥の囀り、葉っぱが重なり合い、風が通る音。
ちょっとした登山気分を味わいながらも、石畳をさらに上へ、上へと進めば赤い鳥居が見えて、小さな神社があった。
その神社の名前は
「早瀬神社」
少し上がった息を整えて、扁額に書かれた文字を読み上げると、弘海先輩は「覚えてる?」と私を振り返った。