「ていうかなんなの、それ」


弘海先輩は私の猫耳カチューシャに触れてくる。
きっとこう言うのは少女漫画でよくあるドキドキのシチュエーションだろうけど、今の私の立場を考えると、違う意味でドキドキする。

でもここで変に拒否するのも不自然だし、どうしたものか。
あんなに見ていたのに視線も合わなかった弘海先輩が、向こうから私のところにやってきたことに、私はまだ実感がわかないでいた。


「これ、きいちゃんが持ってきてたんです」


気を紛らわすように出した声は、掠れていた。


「畠本さんが?」

「ネコミミだかウサミミだかがお題に紛れ込んでるっていう情報を聞きつけたらしくて、それで」

「なんだ、そっか。びっくりした。だって鴨がネギしょってるんだもん」


うわー、ネコミミだー、と弘海先輩は両手で耳を引っ張ってくる。
子どみたいな顔して、耳で遊んでいる。

だけど、それはちょっとまずい。


「先生」

「ん?」

「アイス、奢ってくださいね」


さりげなく、その手を退けさせる。
弘海先輩の表情が一瞬曇ったのが見えたが、知らないふり。