「菓子先輩が、学校で倒れたんです」

 浅木先生が息をのむ。驚いた顔はしているけれど、「どうして」「何があったの」とは訊かないことから、私は確信した。

「貧血と栄養失調らしいです。柿崎先生はセンター試験で根をつめすぎたせいだと思っているけれど、本当は違いますよね?」

「何が違うのかな?」

 先生の笑顔がこわい。優しい口調の裏に隠された圧力に、肌がぴりぴりした。

「菓子先輩がごはんを食べない理由です。浅木先生は知っているんですよね?」

 しばらく、無言で見つめ合う時間が続いた。浅木先生の強い視線は「お前は本当にこの件に関わる覚悟なのか」と言っている気がしたから、決して目をそらさなかった。

 お店にかかっていたBGMが途切れる。静かすぎて、自分の呼吸の音と心臓の音がやけにうるさい。浅木先生には聞こえていないだろうか。

 再びBGMが流れた瞬間にふっと空気がゆるみ、先生がふーっと息を吐いた。

「ごまかしても無理そうだね。今のこむぎちゃんなら話しても大丈夫そうだ。強くなったね。最初のころは捨てられた子猫みたいだったのに」

「やっぱり猫なんですね……。今は人間になれました?」

「ご主人様を必死で守ろうとしている、一人前の猫に見えるよ」

「結局猫なんじゃないですか!」

 私も気が抜けてしまった。バニラアイスが溶けてグラスの縁を伝っていたので、あわてて手を伸ばした。