「柿崎先生!」

 職員室の扉を開けて大声で呼んだ私に、先生たちが非難の目を向ける。柿崎先生はぎょっとした顔をして、こちらに駆け寄ってきてくれた。

「小鳥遊さん、どうしたの? もうすぐ授業始まるわよ。早く教室に戻らないと……」

 他の先生方をちらちらと伺いながら、小声で私を職員室の外に押し出す。

「菓子先輩は無事なんですか!? どこの病院に運ばれたんですか?」

 先生の言葉をさえぎって、つかみかかりそうな勢いで訊ねる私に、柿崎先生は目をみはり、ふうっと息を吐いた。

「そっか、一年生のほうまで話が伝わっちゃったのね」

 柿崎先生は私を気遣うような表情になって、大きくなり始めたお腹をさすった。

「小鳥遊さんは部活の後輩だし、隠していても仕方ないから伝えるわね。さっき保健の先生から電話があって、命に別状はないって。貧血と栄養失調だったから、点滴を受けてから家に送り届けるって言っていたわ。センター試験も終わったばかりだし、きっと根をつめすぎちゃったのね」

「命に……別状はない……」

 力が抜けて廊下にへたりこんでしまった。

「次の授業で百瀬さんのクラスには知らせる予定だったんだけどね。悪いタイミングで話を聞いちゃったのね」

 柿崎先生が背中を支えながら起こしてくれる。ほっとしたら、身重の先生に何てことをしてしまったんだ、と気付いてさーっと血の気が引いた。