「菓子先輩が、倒れた!?」

 耳を疑うような一報が入ったのは、三学期が始まってしばらくたったころだった。

 椅子を思い切り蹴飛ばして立ち上がった私に、クラス中の注目が集まっていた。けれど、そんなことは気にならないくらい私は動揺していた。

「ちょ、ちょっとこむぎちゃん落ち着いて。あっちで話そう」

 なんとか冷静さを保っているみくりちゃんが、私の手を引いて廊下のはじっこに連れて行く。

「菓子先輩が……どうして……」

「三年生のクラスの階がざわざわしていたから、通りがかったバレー部の先輩に聞いてみたの。そうしたら、百瀬先輩が授業中に急に倒れて、保健の先生の車で病院に運ばれたって……」

 心臓の音がうるさくて、頭がつぶれそうだった。手がつめたい。震えが止まらない。

「びょういん……病院に行かなきゃ!」

「まだどこの病院かも分からないし、先生に訊かないとどんな病状かも……。待って、こむぎちゃん!」

 みくりちゃんの制止する声も聞かず、私は走り出していた。廊下を全力疾走していたら先生に注意されそうになったけど、私の顔を見たら何も言わずに通してくれた。よっぽどひどい顔をしていたらしい。
 もう、呼吸をするので精一杯で、何も考えられなかった。ただ足だけが、もつれながらも走るのをやめなかった。

 菓子先輩を拒食症だと疑い始めたころ、ずっとごはんを食べなかったらどうなるのか調べたことがある。そして私でも知っているような外国の有名歌手が、若くして拒食症で亡くなっていると知った。
 正直そのときは、調べたことを後悔した。怖くてたまらなかったけれど、菓子先輩はこの人とは違う、こんなことにはきっとならないと思い込もうとしていた。

 でも、でも。

 もしかしたら、菓子先輩が死んでしまうかもしれない。私の前からいなくなってしまうかもしれない。

 こんなことなら嫌われてもいいから、強引に事情を聞き出せば良かった。毎日無理やりにでもごはんを食べさせれば良かった。

 取り返しのつかない後悔が襲う。その重さとつめたさに、心が押しつぶされそうだった。