「……私も、いつかそんな恋がしたいです」

「できるわよぉ! まだ高校生なのよ? 若さいっぱい、未来もいっぱい、これから何でもできるのよ~? 教師をしているとあなたたちがうらやましく思えるもの。それに小鳥遊さんは可愛いし、共学の大学に行ったらモテモテよ、きっと」

「ほんとですか? なら、それを楽しみに受験を頑張ってみます」

 やっと少し笑えた頃、菓子先輩が戻ってきた。ずいぶん長いトイレだったようだ。

「こむぎちゃん、柿崎先生とはお話できた?」

「はい。いろんなことを教えてくれて……」

「そっか。それなら良かった」

 そう言った菓子先輩の声色も、横顔もいつもと違う気がする。少し悲しそうなのはどうして?

 菓子先輩はもしかして、私の恋心に気付いていたのではないか? いつから――たぶん、浅木先生に初めて会った、あの最初の日から。
 そういえばいつもさりげなく、放課後にpale‐greenに誘ってくれていた。私が一人でも通えるようになってからは、逆に誘われることもなくなって……。

 そうか、ずっと菓子先輩は、知らないふりをしながら応援してくれていたんだ――。

「よくがんばったわね」

 私にしか聴こえない小さな声で菓子先輩が優しくささやく。座席の下で、手と手をそっとつないでくれた。

 今日はベッドに入ったら、我慢せずに思いっきり泣こう。初めての失恋の弔いと、少し大人になったお祝いに。今日だけは浅木先生の夢を見るかもしれない。だけど明日からはきっと、新しく進んでゆける。

 自分だけの石ころをダイヤモンドに育てる旅は、まだまだ始まったばかりなのだから。