「先生……。見た目や雰囲気だけで好きになって、外向きの相手の顔しか知らないのに恋してるのって、やっぱりおかしいですよね」

 柿崎先生の私を見る目があまりにも優しいから、今まで誰にも言えなかった不安な気持ちをぽろっと口に出していた。

「そんなことないと思う。私だって高校生の頃は見た目の好みだけで好きになってたわよ。相手が理想通りだったらさらに夢中になったし、なんか違うなって思ったら好きじゃなくなってた。みんなそんなものじゃないかしら。きっかけなんて何でもいいの。たくさんの答え合わせをして、だんだんと想いを育てていくのが大事なんじゃないかな」

「たくさんの……答え合わせ……」

 それはきっと一人でしていくものじゃなくて、相手と一緒にできたらとても幸せなことで。私はきっと理想の王子様を浅木先生に当てはめていただけで、先生は私が生徒だから優しくしてくれただけ。それは全然答え合わせなんて言えない。

「それにね、実を言うと私、浅木先生のこと最初は全然好みじゃなかったのよ。ナヨっとした優男なんて頼りにならないって思ってたし」

「え……そうなんですか?」

「うん。意外でしょ? でも親しくなるうちに、こんな男らしい人はいないって思うようになってね。浅木先生が学校をやめるって言ったときも、不安なんてなかったから反対もしなかったの」

 思い出すように遠くを見つめる柿崎先生の瞳には、きっと今までの二人の歴史が映っていて。それはきっと、私の半年の片思いでは太刀打ちできないくらいの大きな大きな想いの歴史――。