「え? 私のために?」

「はい。これです」

 戸惑った様子の先生に、菓子先輩は茶葉の入った缶を差し出す。蓋を開けると、紅茶よりも赤みがかった、細い松葉のような茶葉が顔を覗かせた。

「これって……、ルイボスティー……」

「やっぱり、ご存じだったんですね。先生は食べ物や飲み物にも気を遣っていらっしゃったから、きっと普段から飲んでいらっしゃるだろうと思って。先生にも安心してアフタヌーンティーを楽しんでいただきたいから、ノンカフェインのルイボスティーをご用意したんです」

 柿崎先生はしばし呆然としたあと、前髪をかき上げながらあはは、と笑った。その笑顔は以前の男勝りで明るい柿崎先生そのものだった。

「まいったわ。百瀬さんには全部お見通しだったのね。教師として恥ずかしいわ」

「そんなことないです。先生にお世話になった部員の一人として、とても嬉しいニュースです。おめでとうございます」

「ありがとう。まさか結婚する前に妊娠するなんて、バツが悪くて生徒には言えなくて」

 ん? と私の思考回路が一瞬停止した。柿崎先生は拒食症ではなかったのか? 妊娠ということは、つまり先生のお腹に子供がいるということで。じゃあみくりちゃんが言っていたトイレでの様子は、つわり?