「あっ、柿崎先生、来てくださったんですね!」

 テーブル席の準備をしていたみくりちゃんのはしゃいだ声が聴こえる。

「ご招待ありがとう。ちょっと早く来すぎちゃったかしら。まだ準備中?」

「いえ、大丈夫です。お好きな席にかけて待ってらしてください」

 みくりちゃんは一礼したあと、調理場の私たちに目配せした。

「じゃあ、先生のオーダーを取ってくるわね。こむぎちゃん、柚木さん、あとはよろしくね」

「はい」

 菓子先輩はさっそうと先生のもとへ向かっていく。あとの準備はよろしくと言われたけれど、気になってそれどころじゃない。ホワイトボードの隙間からちらちら様子を伺っていると、

「そんなに気になるなら近くに行ってくれば? こっちの準備はもう終わりそうだからさ。ほら、台拭き」

 柚木さんがやれやれ、という様子で背中を押してくれた。

「うう、ありがとう。お言葉に甘えてテーブル拭いてきます……」

 隣のテーブルを拭くふりをして、柿崎先生と菓子先輩に近付く。ふたりが楽しそうに談笑する声が聴こえる。

「それは楽しみね。どんなアップルパイなのか期待してるわ」

「はい、自信作なんです。ぜひ先生に食べていただきたくて。――そうそう、紅茶のオーダーを取りに来たんでした。いろいろと茶葉を選べるようにしたんですよ」

「あ、そうなの……。でも私、紅茶は……」

 柿崎先生が言い淀み、顔色を曇らせる。やっぱり、と思ってテーブルを拭く手が止まる。ドキドキして成り行きを見守っていたら、菓子先輩が私に気付いてにっこりと微笑んだ。

「ええ。だから今日は先生のために、茶葉の種類を増やしたんです」

 菓子先輩が柿崎先生に告げたそれは、昨日計画したふたつめの提案だった。