「菓子先輩、お疲れ様です。講義すごく良かったです」

「一回も詰まらなかったし、完璧でした」

「お客さんもすごく感心してましたよ」

 みんなが口々に褒める。菓子先輩は疲れた顔でふにゃ、と笑った。

「ありがとう~。でもやっぱりちょっと緊張したわ~」

「台本を見ないであそこまで出来るんだから大したものですよ」

 私だったら、緊張のあまり最初の一文さえ忘れそうだ。やっぱり美人は人前に出るのが得意なのだろうか。

「だって毎日遅くまで練習していたもの。昨日はなかなか眠れなかったし」

 菓子先輩はパーフェクトに見えるけれど、最初から完璧なのではなく人知れず努力しているということか。

「菓子先輩も人の子なんですね。なんかちょっと安心しました」

「こむぎちゃん、どういう意味かしら」

 先輩がむぅ、と頬をふくらませる。

「そのままの意味です。あ、今のうちに喉を潤しておいたほうがいいんじゃないですか? この紅茶、カップに注いであげます」

「む~。それもそうね」

 さりげなく菓子先輩を誘導すると、私の注いだダージリンを飲み干してくれた。先輩が飲み食いしているところを見ると少し安心する。

 一時間ごとの入れ替え制で、一日二回。長かった一日目のアフタヌーンティーが終わった。

「お疲れ様~!」

 お客様を送り出したあと、みんなでハイタッチをした。なんだか私、柄にもなく青春っぽいことしてる。心の奥がむずむずするけれど、思わず叫びそうになるような不思議な嬉しい感覚があった。