吹奏楽部のファンファーレが高らかに響き渡り、桃園高校文化祭が始まった。クラス出展の係は今日と明日の午前中にまとめてもらって、午後からは料理部のアフタヌーンティーに四人そろって専念できるようにした。

 看板持ちや映画のフィルム回しをこなしたあと、ばたばたと調理室にかけこむ。菓子先輩はすでに準備を始めていた。

「すいません、遅くなって……っ」

「大丈夫大丈夫、余裕よ。それと、私が来たときにもう人が並んでいたから、整理券お渡ししちゃった。なんだか大盛況になりそうねえ」

 るんるんとお湯を沸かしている先輩の頭には黒いリボンカチューシャ、いつもの割烹着ではなくアリス風の水色のエプロンを身に付けていた。何気に靴下もボーダーのニーハイソックスである。

「……なんか、似合いますね」

 制服の上からでこのハマりっぷりなのだから、完全にコスプレさせたらどうなるんだろうか。

「でも一人だと恥ずかしいわ~。みんなも早く着替えてちょうだい」

 私が時計ウサギ、みくりちゃんが帽子屋、柚木さんがチェシャ猫のカチューシャを身に付ける。エプロンもそれぞれのキャラに合わせて、白、黒、紫だ。

「テーマパークで浮かれた人みたい……」

 うさぎの耳をつけた自分を鏡で確認して、ぞわぞわと鳥肌が立った。

「え~、似合ってるのに!」

「そうだよ、あたしのほうがひどい有様だよ……」

 帽子屋のシルクハットが余裕で似合うみくりちゃんと、キャラに合わない猫耳を付けられてお通夜状態の柚木さんである。じゃんけんで決めたので誰も文句は言えない。

「まあ、手作り感満載だけど、これはこれで文化祭らしいんじゃないかな。楽しもうよ」

 みくりちゃんにそう言われると、これはこれで楽しいのかもと思えてきた。うさぎの耳のカチューシャなんて、こんなことがなければ一生縁がなかっただろうし。

「そうだね」

 こういうイベントは羞恥心を捨てて楽しんだもの勝ちなのだ。今までイベントというイベントを、雰囲気に染まり切れずに一歩引いて見ていた。斜に構えた自分はもうおしまい。今日は自分が主人公になったつもりで楽しもう。