「どう? はかどってる?」

 準備も終盤に入ったころ、柿崎先生が様子を見に来てくれた。

「材料、足りないものはない? 今のうちなら買ってこれるけど」

「大丈夫です、ありがとうございます」

「じゃあ、あとは当日の様子を見てって感じかしらね。七時には教室の鍵閉めるらしいから、それまでには帰りなさいね」

 はーい、と全員で答えたあと、手を洗いながら菓子先輩がさりげなく先生を誘った。

「あ、先生良かったら休憩して行きませんか? 明日のために買った紅茶、これからちょうど味見しようと思ってたんです。先生、この銘柄お好きでしたよね」

「ああ、うん……。せっかくだからいただきたいのだけど、まだまだやることがあってね……。明日の本番も見に来るから、準備頑張ってね。それじゃ」

 先生は一瞬迷ったそぶりを見せたものの、そそくさと帰ってしまった。やっぱり、何か変だ。みくりちゃんと顔を見合わせる。

「柿崎先生、何かそっけなくない? 授業の時とか、もうちょいフレンドリーじゃなかったっけ」

 部活中に先生と会うのは初めての柚木さんも、首をかしげていた。

「う~ん……」

 菓子先輩だけがなぜか紅茶の缶を凝視しながら、何か考え込んでいた。

「菓子先輩、どうしたんですか?」

 当日使う茶葉は、ストレート用のアールグレイ、レモンティー用のダージリン、ミルクティー用のアッサムを用意した。柿崎先生はアッサムをロイヤルミルクティーで飲むのが好きで、菓子先輩はよく淹れてあげていた。

「ちょっと思いついたことがあって」

 菓子先輩は紅茶の缶から顔を上げて、私たちに向き合った。その顔が何かを発見したときの名探偵みたいな笑顔だったから、私はまた密かな期待と胸の高鳴りを、この先輩に感じてしまうんだ。

「――みんな、ちょっと提案があるんだけど、聞いてくれる?」