「あ、はい。たぶん一人は見たことあるかも。前に一緒に来たので」
答えながら、浅木先生がいつもより心配そうな顔をしていることに気付く。
「こむぎちゃん。……菓子ちゃんは、引退してもなんだかんだ理由をつけて遊びに来ると思うよ。心配しなくても、大丈夫」
「……そうですね。菓子先輩ですもんね」
なぐさめるような笑顔で、言い聞かせるような口調で、浅木先生が話す。私はむりやり作った笑顔で、胸の中がとてもつめたいのをごまかす。
浅木先生も、菓子先輩も、いつも私の気持ちを先回りして優しくしてくれる。だから私は甘えてしまうし、ふたりのそばにいるのが心地いいんだ。
私が浅木先生のことを好きな理由が、なんとなく分かった。菓子先輩に似ているから、だなんて誤解されそうなこと、誰にも言わないけれど。
浅木先生みたいなふわふわ優しいオムライスを口に運びながら――明日からの文化祭準備、頑張ろう。そして絶対に文化祭を成功させて、笑顔で菓子先輩の引退を見送るんだ――と心に決めた。
* * *
あわただしく過ごす間に時計の針は進み、十月になった。季節的には秋だけど、まだまだ夏が名残惜しそうにしっぽを残している。衣替えをしたけれど、文化祭当日はクラスで作った半袖のTシャツで動き回る生徒がほとんどだろう。
文化祭前日。私たちは、明日出すメニューの作り置きをしていた。
「えっと、スコーンとアップルパイは今日作っちゃって、サンドイッチは明日の朝作るんだよね。で、明日の放課後は明後日の分の焼き菓子を作って……」
文化祭前日の雰囲気にのまれてしまったのか、私は分かりやすくあたふたしていた。教室でも廊下でも、至るところで生徒が忙しそうに動き回っていると、なぜだかこちらまで焦ってしまう。
答えながら、浅木先生がいつもより心配そうな顔をしていることに気付く。
「こむぎちゃん。……菓子ちゃんは、引退してもなんだかんだ理由をつけて遊びに来ると思うよ。心配しなくても、大丈夫」
「……そうですね。菓子先輩ですもんね」
なぐさめるような笑顔で、言い聞かせるような口調で、浅木先生が話す。私はむりやり作った笑顔で、胸の中がとてもつめたいのをごまかす。
浅木先生も、菓子先輩も、いつも私の気持ちを先回りして優しくしてくれる。だから私は甘えてしまうし、ふたりのそばにいるのが心地いいんだ。
私が浅木先生のことを好きな理由が、なんとなく分かった。菓子先輩に似ているから、だなんて誤解されそうなこと、誰にも言わないけれど。
浅木先生みたいなふわふわ優しいオムライスを口に運びながら――明日からの文化祭準備、頑張ろう。そして絶対に文化祭を成功させて、笑顔で菓子先輩の引退を見送るんだ――と心に決めた。
* * *
あわただしく過ごす間に時計の針は進み、十月になった。季節的には秋だけど、まだまだ夏が名残惜しそうにしっぽを残している。衣替えをしたけれど、文化祭当日はクラスで作った半袖のTシャツで動き回る生徒がほとんどだろう。
文化祭前日。私たちは、明日出すメニューの作り置きをしていた。
「えっと、スコーンとアップルパイは今日作っちゃって、サンドイッチは明日の朝作るんだよね。で、明日の放課後は明後日の分の焼き菓子を作って……」
文化祭前日の雰囲気にのまれてしまったのか、私は分かりやすくあたふたしていた。教室でも廊下でも、至るところで生徒が忙しそうに動き回っていると、なぜだかこちらまで焦ってしまう。