浅木先生と接していて気付いたことだけど、いくら二人が仲良くしていても菓子先輩に対して嫉妬の気持ちが湧かないのは不思議だった。自分が恋に狂う姿はあまり見たくないので、幸いと言えば幸いなのかもしれない。

「浅木先生も時間があれば、文化祭にいらしてくださいね」

 文化祭は土日をまたいで開催され、保護者だけでなく一般の人も自由に参加できる。

「そうしたいんだけど、土日にお店は閉められなくてね……。終わったあとに話を聞くのを楽しみにしているよ」

「そうですか……」

「ぜひ打ち上げに使ってやってね」

「あはは、そうします」

 すごく残念だけど、浅木先生が文化祭に来たらどうなるのか、なんとなく想像がつく。ファンに囲まれている姿を見てショックを受けるよりはいいのかな、と自己完結してスプーンを取った。

「はぁ~、オムライスの卵、ふわふわでおいしい。中のチキンライスも、ケチャップじゃなくてバターライスなんですね」

 浅木先生の料理は何を食べてもおいしい。ビーフシチューも家庭では出せない味だったし、このオムライスのふわふわ卵も、私は家でやってもいつも失敗してしまう。

「上からかけるのがデミグラスソースだから、ケチャップライスにするとくどくなりすぎちゃうからね。あとはカレー風味のチキンライスにしたり、卵にほうれん草を入れたり、色々アレンジしても楽しいよ」

「へ~、今度部活で作ってみます」

 そう答えてから、もう文化祭の準備で手一杯なので、引退までに菓子先輩と一緒にごはんを作ることはないんだなと気付いた。

「……そういえば、新しく部員が二人入ったんだってね。今度紹介してね」

 黙りこんでしまった私を気遣って、浅木先生が話を振ってくれた。