文化祭の準備は着々と進み、いよいよ一週間前になった。
 三日前からは授業が短縮になり、授業時間をクラス出展の準備に当てられる。それだけで終わらない場合は放課後に持ち越しだし、部活出展の準備もあるのでこれからどんどん忙しくなってくる。

 その前に心にサプリメントをあげたくて、私は久しぶりに浅木先生のお店にやって来ていた。

「はい、どうぞ。ふわふわ卵のオムライス」

「わあ、おいしそう」

 チキンライスの上にお行儀良く乗ったオムレツをスプーンで割ると、ふわりと花が咲いたように半熟卵が広がった。わあ、と感嘆の声をあげている間に、浅木先生が卵の上からデミグラスソースをかけてくれる。
 このパフォーマンスのようなひと手間があるので、ついついここに来るとオムライスを頼んでしまう。好きな人に手をかけてもらうのは嬉しい。ひとときだけでも、自分が特別な女の子になったような気持ちになれるから。

 浅木先生との出会いから約半年。一人で訪れたときはカウンターに座って、浅木先生とおしゃべりしながら食事できるようになった。最初は至近距離で話すだけでドキドキしていたのに、我ながら成長したものだ。

「ここで夕飯食べて行っちゃって大丈夫なの?」

「はい。文化祭の準備で遅くなるから、夕飯は食べてくるって母に言っておいたので」

「そっか。そろそろ文化祭だもんね」

「今年は料理部で、本格的なアフタヌーンティーをやるんです」

「ああ、菓子ちゃんから聞いたよ」

 いつの間に。菓子先輩だってここのところ、寄り道している様子はなかったのに。私の視線に気付いたのか、浅木先生は

「メールで連絡取ってるんだ、たまにね」

 と説明してくれた。私は浅木先生のメールアドレスすら知らないのに、と余計に悲しくなる。もっとも、理由もないのにアドレスを聞く勇気もないけれど。