「みくりちゃん、どうしたの」

 まわりに人気はないけれど、自然とひそひそ声になってしまう。

「こむぎちゃん、柿崎先生がダイエットしてるって話、あまり他の人にしないほうがいいかも」

「え、どうして?」

「たぶんダイエットじゃないと思うんだよね……。実は前に、先生がトイレで吐いてるとこに遭遇しちゃって」

「ええっ」

「夏休み前だったかな。ちょっと職員用トイレを借りたことがあって。先生と目が合う前に逃げたから、向こうは私だって分かってないと思うけど……」

 そのときのことを思い出したのか、みくりちゃんは眉間に皺を寄せて、苦いもののように唾を飲みこんだ。

「あと、二学期始まるときに支部総会があったでしょう? うちの地区の担当が柿崎先生なんだけど、父によると、柿崎先生、出てきたものをまったく食べなかったらしいんだよね」

 支部総会は保護者と先生による懇親会のようなもの。地区ごとに分かれていて、年に数回、お寿司屋さんやうなぎ屋さんなどで会合がある。

「それって、もしかして、拒食症……とか?」

「分からない。でも結婚前ってマリッジブルーになったりするらしいし、先生も大変な時期なのかも」

 そういえば、私にも思い当たることがある。週に一回、活動日に先生が様子を見に来てくれるのだが、以前は菓子先輩がすすめれば一緒にお茶してくれた先生が、ここのところお茶を断ってすぐに戻ってしまうようになった。でも拒食症って、お茶も飲めなくなるのだろうか? ――そうだ、菓子先輩は。

「みくりちゃん。……菓子先輩のことはどう思う?」

「それがこむぎちゃんが聞きたかったことだよね」

 私は頷く。拒食症――。菓子先輩の今までの行動について考えた結果、思い当たったのがそれだった。けれど菓子先輩はお茶は普通に飲んでいるし、柿崎先生のように顔色も悪くない。