「こむぎちゃん、調理部の顧問って柿崎先生でいいんだよね? 女の先生の」

「うん、そう」

 私が入口でもじもじしている間に、みくりちゃんは座席票で柿崎先生の机を調べ、躊躇なく職員室の奥に進んで行ってしまった。これが優等生の対応なのかと感心している場合ではないので、あわてて後を追う。柿崎先生は机でなにやら書類整理をしていた。

「柿崎先生。調理部一年の御厨と小鳥遊です。文化祭の出展が決まりましたので、申込用紙を持ってきました」

 みくりちゃんの声で顔を上げた柿崎先生は、若い女の先生。ショートカットに眼鏡をかけているのがボーイッシュだけど色っぽくて私は好きだ。さっぱりしていて男勝りな先生なので、生徒にも人気がある。

「ああ、百瀬さんから聞いているわ」

 ふだんなら溌剌とした雰囲気の先生なのだが、今日は顔色も悪くて声もよわよわしい。

「はい。判子を押しておいたから、文化祭実行委員の人に渡してね」

 これで終わりではないのか。どうして学校の提出物って判子がたくさん必要なんだろう。

「じゃあ明日クラスで、実行委員の子に渡します」

「そうね、分かったわ」

 みくりちゃんが先生から申込用紙を受け取ったとき、先生の薬指でキラリと光るものがあった。

「あ……っ、指輪」

 私が口に出してつぶやいてしまうと、柿崎先生はハッとして顔を赤らめた。先生の薬指には控えめなダイヤがついたリングが光っていた。飾り気のない柿崎先生が指輪をつけているなんて、もしかしてエンゲージリングかもしれない。