「……おいしい!」
「本当? 良かったあ」
「はい。トマトの味がすごく濃い……」
私の好みはけっこううるさくて、酸味が強すぎてもダメ、水っぽすぎてもダメ。たぶん今までの人生で一番おいしいミネストローネ。
「私、給食のミネストローネは薄くてあまり好きじゃなかったんですけど、これは本当においしいです。あとこの豆もおいしい……」
「ひよこ豆なの。ほくほくしておいしいでしょ? あと、使うトマト缶に合わせて水の量や味付けを変えるのが水っぽくならないポイントよ。イタリア産のホールトマトが、甘味も味も濃くてオススメなの」
一口食べたあとは勢いがついて、そのまま夢中で全部食べてしまった。お弁当と一緒に食べるよう計らってくれたのに、お弁当にはまだ手をつけていない。
お腹が落ち着いて冷静になると、先輩は私が非常階段にいた理由を何も聞かないことに気付いた。聞かれていたらきっと、こんなに安心してこの場所にいられなかったと思う。
気を使ってくれた? 興味がないだけ? それとも――。
「あの、百瀬先輩、どうして――」
顔をあげると、先輩はあさっての方向を向いていた。向かいに座っているのに、顔だけ必死にそっぽを向いているから首が痛そうだ。
「あ、あの、どうしたんですか?」
「ほら、猫って食べるところを人間に見られるの嫌じゃない? こむぎちゃん、すごく猫っぽいから、もしかしてそうなのかなって」
「私は猫ですかっ!」
へなへなと気が抜けてしまった。先輩は、私がそんな理由で非常階段にいたと思っているのか。
「私は食べてるところ見ないから、いつでもお弁当食べにきていいのよ。明日はミルクスープにする予定なの。こむぎちゃん、明日も味見してくれる?」
私はその言葉には答えられなかった。黙りこんだ私に、先輩は二杯目のミネストローネを注いでくれた。お弁当とそれを無言で食べ終わると、
「帰ります」
私はお礼も言えずに立ちあがってしまった。
「こむぎちゃん!」
百瀬先輩の声だけが追ってくる。
「放課後、調理室の扉はいつでも開いているからね」
その言葉を背中で聞いて、後ろ手で扉を閉める。
悲しくないのにあふれてきた涙を、この人に見られたくなかった。
「本当? 良かったあ」
「はい。トマトの味がすごく濃い……」
私の好みはけっこううるさくて、酸味が強すぎてもダメ、水っぽすぎてもダメ。たぶん今までの人生で一番おいしいミネストローネ。
「私、給食のミネストローネは薄くてあまり好きじゃなかったんですけど、これは本当においしいです。あとこの豆もおいしい……」
「ひよこ豆なの。ほくほくしておいしいでしょ? あと、使うトマト缶に合わせて水の量や味付けを変えるのが水っぽくならないポイントよ。イタリア産のホールトマトが、甘味も味も濃くてオススメなの」
一口食べたあとは勢いがついて、そのまま夢中で全部食べてしまった。お弁当と一緒に食べるよう計らってくれたのに、お弁当にはまだ手をつけていない。
お腹が落ち着いて冷静になると、先輩は私が非常階段にいた理由を何も聞かないことに気付いた。聞かれていたらきっと、こんなに安心してこの場所にいられなかったと思う。
気を使ってくれた? 興味がないだけ? それとも――。
「あの、百瀬先輩、どうして――」
顔をあげると、先輩はあさっての方向を向いていた。向かいに座っているのに、顔だけ必死にそっぽを向いているから首が痛そうだ。
「あ、あの、どうしたんですか?」
「ほら、猫って食べるところを人間に見られるの嫌じゃない? こむぎちゃん、すごく猫っぽいから、もしかしてそうなのかなって」
「私は猫ですかっ!」
へなへなと気が抜けてしまった。先輩は、私がそんな理由で非常階段にいたと思っているのか。
「私は食べてるところ見ないから、いつでもお弁当食べにきていいのよ。明日はミルクスープにする予定なの。こむぎちゃん、明日も味見してくれる?」
私はその言葉には答えられなかった。黙りこんだ私に、先輩は二杯目のミネストローネを注いでくれた。お弁当とそれを無言で食べ終わると、
「帰ります」
私はお礼も言えずに立ちあがってしまった。
「こむぎちゃん!」
百瀬先輩の声だけが追ってくる。
「放課後、調理室の扉はいつでも開いているからね」
その言葉を背中で聞いて、後ろ手で扉を閉める。
悲しくないのにあふれてきた涙を、この人に見られたくなかった。