「本当は飲食店をやりたかったのだけど。抽選に負けるよりはってことでお化け屋敷になっちゃったの」

「うちのクラスもそうすれば良かったのに……」

「こむぎちゃんたちはまだ二年あるもの! それに映画館だって工夫をすれば楽しいわ、きっと」

 文化祭で、出展数が決まっているジャンルは三つある。まず、自分たちで調理したものを出す飲食店。おなじみ、カレーとかクレープとかのアレである。
 次に、包丁や火を使わず、買って来たものを盛り付けて出すだけの、食べもの販売。アイス屋さんやジュース販売など。
 最後にお化け屋敷系。迷路や脱出ゲームもそれに当たる。

 飲食店はほぼすべてのクラスが希望するため、抽選が苛烈な争いになる。それを見越して最初から食べもの屋さんかお化け屋敷を希望するクラスもあるので、抽選に負けるとそれ以外の地味な出展になってしまうのだ。

「まあ、準備も当日も楽だからいいんですけどね。みくりちゃんと柚木さんも余裕あると思うので、確かに料理部で何かするにはいいのかも」

「うんうん。クラス出展の雪辱をここで晴らしましょう!」

「そこまで悔しいわけじゃ」

 菓子先輩はすっかりやる気になっているけれど、受験勉強は大丈夫なのだろうか。

「菓子先輩……」

「あ、そろそろシフォンケーキが焼けるみたい。こむぎちゃん、生クリームを泡立てる準備をしてもらっていい?」

「はい……、そうじゃなくて!」

 大事な話をしようとするといつもはぐらかされる気がする。単に私のタイミングが悪いからで、菓子先輩に当たってもしょうがないのは分かっているんだけど。

「どうしたの、こむぎちゃん」

「菓子先輩は受験生なのに、こんなに毎日部活に来ていていいんですか? 顧問の先生は何も言わないんですか?」

 菓子先輩はシフォンケーキをさかさまにしながら「う~ん」と口ごもった。

「実は、せめて週に一回くらいの活動にしろって言われているのよねえ。もともと料理部の活動は水曜日だけで、それ以外は私が自主的に活動していただけだし」

「え、そうだったんですか?」

「部活説明会のときにもらった冊子に、書いてあったでしょう?」

 部活なんて縁がないと思っていたから、ろくに読まず捨ててしまった、なんて言えない。