* * *

「こむぎちゃん、良かったわね」

「……はい」

 とっぷり日の暮れた帰り道を菓子先輩と二人で歩く。

 あのあと柚木さんのお母さんが無理して部屋から出てきてくれて、私と菓子先輩はお礼を言っておいとました。お母さんは、化粧気のないさっぱりした美人だった。病気で弱っているのに力強い雰囲気とか、包容力とか、理想の看護師さんという感じ。

 スコーンとホットサンドには驚いていたみたいで、ぜひ娘を料理部に……と直々に頼まれたけど、柚木さんは「部活に入るより家でやりたいことがある」と言ってきかなかった。柚木さんが家事をマスターしてお母さんを驚かせる日は、そう遠くないような気がしている。

「菓子先輩……」

「ん?」

 街灯に照らされた菓子先輩の腕は、昼間よりも青白く、透けてしまいそうに見えた。夏服になってから余計に目立つようになった、菓子先輩の細さ。

 ちゃんとごはんは食べているのだろうか。いつもおいしいもので誰かを幸せにしている菓子先輩自身は、ちゃんと幸せなのだろうか。

 もうすぐ学校に着いてしまう。少しでも先送りにしたくて歩くペースを落としたら「どうしたの?」という顔で菓子先輩が振り向いた。

「あの、私……」

「――こむぎちゃん!」

 聞きなれた声にさえぎられ、校門の方角に目をやると、みくりちゃんがこちらに向かって走ってきていた。

 そういえば、やっぱり身体を動かしたいからバレー部に入ると言っていたっけ。それでこんな時間まで学校にいたのかな。

「御厨さん、久しぶりねえ。元気だった?」

 私たちの前まで走ってきたみくりちゃんは、はあはあと肩で息をしている。