「お母さんが元気になってお仕事に復帰したら、お弁当にホットサンドを持たせてあげたらどうかな。ホットサンドって中身が見えないから、食べるときにわくわくすると思うし、メモに今日の中身を書いて添えてもいいし……。きっとお母さん喜ぶと思うんだ」

 柚木さんはきょとんとした顔をして私を見つめた。こんな簡単なアイディア、すでに柚木さんも思いついていただろうか。

「それ、ちょっと照れくさいけどすごくいいね。そっか、母が退院してもあたしにできることはあるんだよね……。いない間のことばっか考えてたけど」

 柚木さんが笑ってくれたのでとても安心した。その笑顔は心なしか、私たちが来た頃よりもすっきりして見えた。

「料理部に遊びに来てくれれば、簡単な夕飯のメニューも教えられるわ。もちろん入部も大歓迎」

「今度、教わりに行きます。部活ってガラじゃないから、入部は分からないけれど」

「待ってるわ」

 陽が落ちて、ダイニングの小窓からオレンジ色の夕陽が射し込んでいた。昼間降っていた雨は上がったみたい。夜になるまでの一瞬の、奇跡みたいな時間が私たちを包んでいた。

「あの」

 今なら言えるかもしれない。

 今日柚木さんは私にいろんな顔を見せてくれた。ふだん学校で会っているだけじゃ知ることのできなかったたくさんの柚木さん。だから、私だけ心の奥底を隠したまま、このまま帰るなんてできない。

「柚木さん、私ね。柚木さんが思っているようなかっこいい一匹狼じゃないんだ。ただ友達付き合いがうまくいかなくて、一人になっちゃっただけ。ほんとは一人でなんていたくない、情けなくてかっこ悪い奴なんだ。……ごめんね、昨日ちゃんと言えなくて」

「ええ?」

 柚木さんが怖い顔になった。怒られる。そう思って反射的に身をすくめる。