「そうだね、クリームチーズを甘くした感じに近いけど、もっとこっくりした感じかも。クロテッドクリームって作るのは大変だから、これは市販のなんだ。あ、ジャムは菓子先輩の手作りだよ」

「売ってるジャムよりおいしいよ、これ。スコーンも、ケーキ屋とかでたまに見たことあるけど、買ったことはなかったなあ。クッキーとは違って食べごたえがあっておいしいね、これ。あたし好みかも」

「イギリスのアフタヌーンティーの定番よ。お菓子というより軽食に近いのかしら。コーンなんかを入れたしょっぱいスコーンもあるし、朝ごはんにもオススメよ。簡単だからお菓子初心者でも失敗は少ないし、気にいったならレシピあげましょうか?」

 菓子先輩はさりげなく、自分の分のスコーンを私と柚木さんのお皿に移していた。むっと睨むと、口の動きだけで「ごめんね」と言われたので許してあげる。スコーンがたくさん食べられるのは嬉しいからで、私が菓子先輩に甘いわけでは決してない。

「そうだよね……これからは料理くらいできないとなあ……」

 柚木さんの表情がすっと暗くなる。

「うちの母さ、椎間板ヘルニアだったんだ。今日の朝いきなり動けなくなるまであたし、腰が痛かったなんて全然知らなくて。母が勤務してる病院に連れて行ったんだけど、医者の話だと、ずっと傷みを我慢して仕事していたんだろうって。今度検査入院することになって、場合によっては手術になるかもしれない」

「そうだったんだ……」

 いつも溌剌としている柚木さんの声は沈んでいて、今まではから元気だったのだと分かった。本当はお母さんが心配で、体調の悪さに気付けなかった自分をずっと責めていたに違いない。私たちが来るまでずっと。

「掃除とか洗濯はさ、今まで手伝ってきたから何とかなるんだけど、料理はダメだね……。お昼に何か作ろうと思ったんだけど、なんか焦げたようなケチャップ味のパスタしかできなかった」

 ナポリタンでも作ろうとしたのだろうか。パスタを焦がすとはなかなかレベルの高い料理オンチである。