「大丈夫、実はこんなこともあろうかと思って、多めにスコーンを持ってきたの。この茶葉フォションのアップルだったから、きっとすごく合うわよ」

「……なんかいい茶葉だったの? もらいものなんだけど、よく知らなくて」

 柚木さんがこそこそ耳打ちしてくる。

「フランスの、けっこう高級な紅茶メーカーだったと思う……」

 私も日常的に飲んでいるわけじゃないけれど、名前だけは知っていた。たしかアップルティーが有名なんだっけ。

「まじか~。腐らせる前に見つけてもらって良かったかも」

 菓子先輩は小皿にスコーンを盛り付けて、クロテッドクリームとアプリコットジャムを添えた。

 そうこうしているうちに紅茶が蒸らし終わったので、優雅な手つきでルビー色の液体をカップに注いでいく。

 夕暮れの住宅街が今、菓子先輩の手によってヴィクトリア時代のアフタヌーンティーへ……、とはならなかったけれど、なんだかちょっとお上品な気持ちにはなり、柚木さんと私はおしゃべりを止めて菓子先輩の給仕をじっと見守っていた。

「お待たせ。紅茶がさめないうちにいただきましょ。スコーンは紅茶とプレーンの二種類。クロテッドクリームとアプリコットジャムを、好きなようにつけて召し上がってね」

 さすがフォション。アップルティーは香りも風味もふだん飲んでいるティーバックとは段違いだった。オーブントースターで軽くあたためたスコーンは、生地がよくなじんでクリームとよく合う。焼き立てとはまた違ったおいしさ。

「わ、さくさくほろほろしてる! 生地がしっかりしてておいしい! アプリコットってあんず? こんなジャムあるんだ、へえ~……。んっ、クロテッドクリームうまっ! 生クリームみたいなものかと思ったら全然違うんだね、クリームチーズに近い感じ?」

 柚木さんは一口食べるごとに新鮮な反応を返してくれ、菓子先輩とスコーンを焼いた私は嬉しくなってしまう。こういうのが作り手の特権なんだろうなあ。