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 ピーチ通りから何本か裏通りに入った柚木さんの家は、濃いベージュの二階建てアパートだった。近くに公園や保育園があるから、家族向けな感じ。子どもの遊ぶ声や小学生の下校の声が響いていて、のどかな夕方の住宅街だった。

「いらっしゃ~い」

 ピンポンを押してすぐ明るく出迎えてくれた柚木さんは、Tシャツにショートパンツと部屋着モード。スタイルがいいからシンプルな服装でもキマッていてうらやましい。

「わざわざありがとうね~。良かったらあがってお茶でも飲んで行ってよ」

 玄関先で本とお菓子だけ渡して帰ろうと思っていたので、さらっと招き入れてくれた柚木さんに面食らう。

「えっ、柚木さんと菓子先輩は初対面なのに? あとお母さん、うるさくしちゃうと身体にさわるんじゃ」

「だいじょぶだいじょぶ~。動けないだけで、身体は元気だから。お客さん来ると喜ぶからさ、うちの母」

「じゃあ、少しだけ……」

 遠慮しつつも、友達の家に遊びに行くという経験があまりないため、内心わくわくしていた。玄関に上がって所在無げにそわそわしていたら、菓子先輩は落ち着いた所作で靴をきちんと揃えていた。うっ、見習わねば。

 広めの2DK……なのかな? 通された玄関はダイニングキッチンと続いていて、奥にドアがふたつ見えた。そのうちのひとつをノックして、柚木さんが声をかけている。

「お母さ~ん? 友達が来てくれたから上がってもらったよ。うんそう、今日休んだから心配して。……あ~、だいじょぶ、お茶くらいあたしでもできるから! え、お茶菓子? あ~はいはい、わかった」

 とりあえず座って、お茶淹れるからと促されたので、ダイニングの椅子に腰かける。柚木さんは食器棚を開けながら、「ティーポットどこだっけ……ふだん使わないからな……」とつぶやいている。何か手伝ったほうが良いのだろうか。