「メールで私も行っていいか聞いてみて?」

「えっ、菓子先輩も行くんですか?」

「ええ。何かできることがあるかもしれないし」

「そりゃあ、一人で行くよりは気が楽ですけど……」

 私がこの先輩に反発しないのは、先輩が先の先まで見通しているのではないかと思うことがあるからで。のほほん思いつきで行動しているように見えて、実はすべて計算づくなのではと思うこともあって。

「昨日焼いたスコーンもお見舞いに持って行こうかしら? う~ん、そうするとクロテッドクリームとアプリコットジャムもあったほうがいいかしら。こむぎちゃん、どう思う? 柚木さんは甘いものはお好き?」

 いや、私の考えすぎかもしれない。まだ了承の返事も来ていないのにうきうき準備をしている先輩を見ていると、ただ人の世話を焼きたいだけなんだろうと思えてくる。

「好きだと思いますよ。昨日もシナモンティーとアフォガードを頼んでたし。もしかしたら大人っぽい甘さのスイーツが好きなのかも」

「あら、だったらこの甘さ控えめの紅茶スコーンにしましょ」

「お見舞いだったら普通、果物とかを持って行くんじゃないんですか? 柚木さんのお母さん、病気だったらお菓子は食べられないかもしれないし」

「高校生が果物籠を持って行っても、かえって恐縮されてしまうんじゃないかしら。それよりも部活で作ったお菓子のほうが好印象だし、受け取ってもらえると思うわ。スコーンなら日持ちもするし」

 いちいち納得してしまう。二人で準備をしている間に柚木さんからのメールが来た。

『小鳥遊さんと、料理部の先輩までお見舞いに来てくれるの? あたしが具合悪いわけじゃないのになんか悪いな。でも退屈してたから嬉しい。部屋番号は202号室だよ。待ってる』

 迷惑そうなそぶりはない。ほっとしつつ返事をしていると、菓子先輩が後ろから画面を覗きこんできた。

「ね、大丈夫だったでしょ?」

 名前はおいしそうなのに、菓子先輩はまったく食えない先輩である。