『小鳥遊さん、昨日買った本読んだ?』

『うん、読み始めたよ! まだ最初のほうだけど、今回も面白そう』

『あたしも読み始めたよ。読み終わったらお互い感想教え合おう! そうそう、昨日言ってた他のオススメ作家の本、明日持って行くね』

『ありがとう! 私も柚木さんがまだ読んでないって言ってた本、持って行くね』

『ありがと。それにしても、最近はメッセージアプリばっかだから、メールのやりとりって新鮮だわ~』

『うっ……。ごめん、面倒かけて』

『謝る必要ないって。スマホの時代にあえて古いガラケーを使うのって、なんか文学的でいいじゃん。じゃ、また明日学校で』

『うん、おやすみ』


 朝起きて、昨夜の柚木さんとのメールを読み返す。楽しくてついつい、寝る前まで続けてしまった。

 明日学校で。その一文を読んで胸がほっこりあたたかくなる。今日は教室に行っても一人じゃないんだ。話せる人がいるってすごく心強い。……でも。

 夢の内容をぼんやりと思い出す。エスプレッソの苦味や溺れたときの苦しさがあまりにもリアルで、こんな時ばかりは自分の想像力がうらめしい。

 ――学校、行きたくないなあ。

 友達がいなくても一人ぼっちでも、今まで学校を休んだことはなかった。身体だけは丈夫だから、小学校からずっと皆勤賞をもらってきた。

 私は自分が弱い人間だって知っている。だから、一度逃げてしまうともう学校には戻れないって分かっていた。不登校になって、あの子はダメな人間なんだって思われるのも怖い。

 結局、私はプライドばかりの、自分のことしか考えていない人間なんだ。菓子先輩や柚木さんに褒めてもらったような私に、本当になれればいいのに。

 菓子先輩の優しさ、みくりちゃんの明るさ、柚木さんの強さ。自分にはないものばかり。私もそんなふうになりたい。


 約束の本は鞄に入っている。なのにどうしても、それを柚木さんに渡すビジョンが思い描けなかった。