「あ~面白い。小鳥遊さんってやっぱいいわ~。実は一緒のクラスになった時から、なんかいいなって思ってたんだよね」

 柚木さんは、エスプレッソの海に溺れたバニラアイスをせっせとすくい上げながら口に運んでいる。

「えっ、私を?」

「うん。あたし、女子特有のグループとか苦手でさ。本当に気の合う人と、必要なときだけ一緒にいたいんだよね。常に大人数で行動するのって息がつまるし、だったら一人でいたほうがずっと楽だから、まあ学校でも浮いちゃってるんだけどさ」

 私にはコンプレックスでしかない友達がいないことを、こんなに明け透けに話す柚木さんにびっくりした。

「小鳥遊さんてさ、クールっぽい感じだったし、群れてないっていうか一匹狼っていうか……。そういうのいいなって思ってたし、こういう子とだったら仲良くなれるのかなって思った」

「そんな風に思ってくれてたんだ……」

 かっこいい一匹狼は、柚木さんのほうなのに。私はなんの主義も主張もなく、ただ人付き合いが下手だから友達がいないだけで、柚木さんが思っているような価値のある人間じゃないのに……。

「柚木さん、私……」

「ねえ、早く飲まないと紅茶さめるよ」

「あ、うん……」

 大好きなオレンジティーなのに、今日は苦味しか感じなかった。

「今日は本屋で会えてラッキーだったな。しかも好きな作家まで同じだったし。今度本の貸し借りとかしようよ。あたしのメールアドレス教えておくし」

「うん、ありがとう……」

 本当の私を知ったら、柚木さんはきっとがっかりする。もう一人でいたくない。誰かに嫌われるのはつらい。

 一度出しかけた勇気が、アフォガードのアイスクリームみたいに溶けてゆくのを感じた。
 頭の中では、「あたし、嘘つかれるの嫌いだから」という柚木さんの言葉が、いつまでも響いていた。