「ディナータイムだとフードメニューもいろいろあるよ。ビーフシチューとか、トマト煮込みとか」

「うわ、それも食べたい。でもディナーはなあ……。お金もないし、家で食べないと母親が心配するしなあ」

「そうなんだ。柚木さんのところも、親が厳しいの?」

「ていうか、うち、母子家庭でさ。母親が看護師で夜勤も多いから家にいない時も多くて。だいたいそういう時はスーパーのお惣菜かコンビニのお弁当がテーブルに置いてあるんだけどね。食べていないと心配かけるから」

「そうだったんだ……」

 柚木さんの意外な一面を知って、何も言えなくなってしまった。
 文学少女で、苦労人で、母親思い。こんな人を不良なのかなと思っていた自分が恥ずかしい。

「まあ、日勤のときもカレーとかシチューとかが多いかな。あとはレトルトの中華の素を使ったり。うちの母親、料理あんまり得意じゃないから。……あっ、デザート来た来た」

 スイーツとドリンクが並んだテーブルはとても華やか。オレンジの輪切りが浮かべてあるオレンジティー、ふわふわのクリームが添えてあるシフォンケーキ。シナモンスティックが添えてある紅茶に、黒と白のコントラストが美しいアフォガード。

「おお~……。これだけ並ぶと圧巻だなぁ。ね、スマホで写真撮っていい?」

「近くの席にお客さんもいないし、大丈夫だと思う」

 目を輝かせながらスマホを構えている柚木さんは、とても無邪気で可愛かった。

「小鳥遊さんは撮らないの?」

「うん。私、スマホ持ってないし」

「はぁっ!? 今時、高校生で? 珍しくない? っていうか不便じゃないの?」

 今まで友達がいなかったし、特に不便に感じたことはなかった。

「でもほら、ガラケーは持ってるんだよ。親のおさがりのやつだけど、メールと電話はできるし」

 少々時代遅れの二つ折り携帯をポケットから出して見せる。

「これっておじいちゃんとかが使う簡単ケータイじゃん!」

 なにがそんなにツボに入ったのか分からないけれど、柚木さんはしばらく笑い転げていた。