* * *

「こ、こんにちは~」

 おそるおそる、pale‐greenの扉を開ける。いかにも常連ですって雰囲気を出して柚木さんを連れてきてしまったけれど、菓子先輩なしで来るのは初めてなので、内心かなりびくびくしていた。

「へー、こんな店あったんだ。いいじゃん、シンプルだけどシックな感じで、さっきの作家の小説に出てきそう」

 柚木さんはお気に召してくれたみたいだ。

「ああ、こむぎちゃん。今日は菓子ちゃんは一緒じゃないんだね」

 何回か通ううちに名前呼びに変わった浅木先生が、カウンターから出てきてくれる。

「え、なにこのイケメン。知り合い?」

「ちょっ」

 柚木さんが先生にも聞こえる声で会話するから、慌てて口をふさぐ。

 先生は、聞こえていなかったのか聞こえないふりをしてくれたのか分からないけれど、普通に席まで案内してくれた。

「どうぞごゆっくり」

 メニューを置いて立ち去る姿に見とれてしまう。お店の制服も夏服に変わっていて、半袖から伸びる筋肉質の腕にドキドキする。

「ねえ、あの店長っぽい人と知り合いなの?」

「前にうちの学校で先生してた人なんだって。私が入ってる料理部で顧問してたみたいで、それで何回か会ってるの」

「へえ、そうなんだ。……うわっ、ここドリンクのメニューめっちゃ多いじゃん!」

 柚木さんは先生よりもメニューに夢中なようで、私はなんとなくホッとした。

「このさ、カフェロワイヤルとかシナモンティーって、前に出た小説に出てきたよね」

「ああ、あのカフェ店員の話? シナモンスティックで紅茶をかき混ぜるシーンに憧れたなあ」

「あたしも。あの作家やたら食べ物の描写上手いよね」

「わかる~。おいしそうだし、出てくる食べ物もオシャレだよね。あ、デザートにアフォガードもあるよ。映画化した本に出てきたやつ」

「エスプレッソにアイスが入ってるやつでしょ? うわ~、それ一回食べてみたかったんだ」

 いろいろ迷った末、私はオレンジティーとシフォンケーキ、柚木さんはシナモンティーとアフォガードを注文した。