* * *

「私ね、こういう時は他の友達に目を向けるチャンスだと思うの」

 ひとしきり泣いて落ち着いた私に、菓子先輩はとても意外な言葉をくれた。

「他の友達?」

 なんとなく恥ずかしくて、菓子先輩の顔がまっすぐ見られない。

「こむぎちゃんのいいところを分かってくれる人は、きっと他にもいるはずよ。今までお話ししたことのなかったクラスメイトにも話しかけてみて、お友達を増やしたらどうかしら」

「それはめちゃくちゃハードルが高いです……」

「難しく考えなくていいのよ。ちょっとしたきっかけがあったら、それを逃さないこと。勇気を出してみること」

「はい……」

 どうせこれ以上悪くなることなんてないんだ。もう一人ぼっちなんだし。勇気を出すことくらい、怖くない……はず。


 とは言ったものの。

 そもそも、休み時間は机につっぷして寝たふりをしているし、放課後はすぐに教室を飛び出してしまうし、私にはちょっとしたきっかけさえない。

 気分転換に立ち寄ったピーチ通りの本屋さんで、新刊を物色しながら考える。

 本を読むのはけっこう好き。読んでいる間は、自分の悲惨な状況も忘れて物語に没頭できるから。現実では友達のいない女の子でも、本の中でだったらお姫さまにも名探偵にもなれる。

 恋愛小説も好きだけど、ハラハラわくわくするミステリーも好き。現実にはありえないようなファンタジーよりも、現実味のある、少し手を伸ばせば届きそうな世界観が好き。そのほうが希望が持てるからなのかな。

「あ……」

 好きな作家さんの新刊が平積みになっているのを見つける。これ、ずっと文庫になるのを待っていたやつだ。お小遣いじゃハードカバーなんて買えないし、図書館で借りるより手元に置いておきたい派だ。

「あっ」

 本に手を伸ばすと、隣の人と指が触れあった。きれいにネイルアートされた指と子どもっぽい私の指が、本の表紙を左右から取り合っている。

「ご、ごめんなさい」

 慌てて手を離して頭を下げる。ぼうっとしていて、まわりを見ていなかった。

「いや……こっちこそ」

 小説や少女漫画だと恋でも始まりそうなシチュエーションだけど、聞こえてきたのは若い女の子の声で、

「ん……?」

 よくよく見ると同じ制服を着ていて、その顔には見覚えがあった。