「一度聞いてしまったら、そのあと普通にしているなんて私にはできなくて。その日から一人で行動することにしました。お弁当の時間は、何か言われる前に教室を出るようにして」

「御厨さんは心配しているんじゃないの?」

「みくりちゃんにとっては彼女たちのほうが付き合いの長い友達なんです。板挟みになって困らせたくないから……」

「何も打ち明けていないのね?」

「はい……。でもきっと他の子たちは、自分たちの会話が聞かれていたことにうすうす気付いているかも」

「こむぎちゃんは、その子たちのことを悪くは言わないのね」

「だって、よく考えたら私……、みくりちゃんとは打ち解けて話せるようになったけれど、他の子たちには自分から話しかけたりできていなかったんです。話を振ってもらっても、緊張しちゃって少ししか返事できていなかったり。
そんなんじゃ、気を遣って疲れるって言われてもしょうがないです……。もともと人に好かれる性格じゃないから、私。仕方ないです」

「こむぎちゃんはいい子よ。ただちょっと警戒心が強くて不器用なだけ。今だって、自分のことよりも御厨さんに迷惑をかけないように、って考えているでしょう? こむぎちゃんはお友達を思いやれる優しい子よ。自分で気付いていないだけ」

 そんなふうに思ってくれるのは、菓子先輩が優しいからだよ、って言いたかったのに。

「……うっ……ふうぅ……っ」

 嗚咽と一緒に涙があとからあとからこぼれてきて、息もできなくなってしまった。

 仕方ないって諦めていても、やっぱりつらかった。みんなと仲良くなってから、ちゃんとグループに溶け込めるように、空気を読むように、自分なりに頑張ってきた。
 でもそれも全部無駄だったのかな。ううん、それがきっとみんなにも伝わっていたんだ――。

「こむぎちゃん、だいじょうぶよ。だいじょうぶ。我慢しないで泣いちゃいなさい。我慢すると余計苦しくなるわ」

 ひっ、ひっ、としゃっくりみたいな呼吸を繰り返す私の背中を、菓子先輩のあったかい手がなでてくれる。

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。だれも見ていないわ……」

 菓子先輩の手が、言葉が、あたたかさが、毛布にくるまれた揺りかごみたいに思えて。
 私は子どもみたいに大声をあげて泣いてしまったのだった。