* * *
みくりちゃんの相談事。それは、自分のトラウマを克服するために力を貸してほしい、ということだった。
「彼氏と付き合い始めてから、時間が合う時には一緒に帰ることになって……。降りる駅も一緒なので、この前、帰りにどこか寄って行こうか、って誘われたんですね。
駅前にファストフードのお店があったのでそこに入ることになったんですけど、注文して席について、さあ食べようってなった時に異変に気付いたんです。
手元がふるえて、ポテトを口にむりやり運んでも食べられなくて。その時は、体調が悪いみたいってごまかして帰ったんですけど、そう何回も同じことをしていたら不審に思われるし……」
「それは……、つらかったわね」
「また同じ失敗をして、この人に振られたらどうしようって、帰り道はそんなことばかり考えてしまって。今の彼氏はそんな人じゃないって信じているんですけど、やっぱり怖くて」
いつも明るいみくりちゃん。クラスでは、そんなことがあったなんて様子はみじんも出さずに、明るい笑顔をふりまいていた。
むしろ人の相談や愚痴には乗ってあげるほうで、こんなふうに親しくなる前も、私はみくりちゃんが暗い顔をしたり人の悪口を言う姿を見たことがなかった。
だからみくりちゃんが――強くて明るくて、きっと弱いところなんてないと思っていた彼女が――同じ十五歳の繊細な少女なんだと気付いたとき、私は驚いて、でも前よりみくりちゃんを近くに感じることができて、なんだか少しだけ、嬉しかったんだ。
「力になりたい。菓子先輩みたいに頼りにならないかもしれないけど、私にできることがあったら、手伝いたい……」
みくりちゃんが、相談相手に私たちを選んでくれたことがとても嬉しかった。友達のために自分が役に立てる日が来るなんて。こんなに誇らしくてくすぐったい気持ちになることも知らなかったよ。
「ありがとう、こむぎちゃん。
……じゃあ、百瀬先輩だけじゃなくて、こむぎちゃんにも……料理部の二人に改めてお願いするね。あのね、大きなハンバーガーを作って欲しいの」
「大きな」
「ハンバーガー?」
思わず、菓子先輩と顔を見合わせる。私の頭の中では「ぐりとぐら」のカステラみたいな大きいハンバーガーが浮かんでいた。
みくりちゃんの相談事。それは、自分のトラウマを克服するために力を貸してほしい、ということだった。
「彼氏と付き合い始めてから、時間が合う時には一緒に帰ることになって……。降りる駅も一緒なので、この前、帰りにどこか寄って行こうか、って誘われたんですね。
駅前にファストフードのお店があったのでそこに入ることになったんですけど、注文して席について、さあ食べようってなった時に異変に気付いたんです。
手元がふるえて、ポテトを口にむりやり運んでも食べられなくて。その時は、体調が悪いみたいってごまかして帰ったんですけど、そう何回も同じことをしていたら不審に思われるし……」
「それは……、つらかったわね」
「また同じ失敗をして、この人に振られたらどうしようって、帰り道はそんなことばかり考えてしまって。今の彼氏はそんな人じゃないって信じているんですけど、やっぱり怖くて」
いつも明るいみくりちゃん。クラスでは、そんなことがあったなんて様子はみじんも出さずに、明るい笑顔をふりまいていた。
むしろ人の相談や愚痴には乗ってあげるほうで、こんなふうに親しくなる前も、私はみくりちゃんが暗い顔をしたり人の悪口を言う姿を見たことがなかった。
だからみくりちゃんが――強くて明るくて、きっと弱いところなんてないと思っていた彼女が――同じ十五歳の繊細な少女なんだと気付いたとき、私は驚いて、でも前よりみくりちゃんを近くに感じることができて、なんだか少しだけ、嬉しかったんだ。
「力になりたい。菓子先輩みたいに頼りにならないかもしれないけど、私にできることがあったら、手伝いたい……」
みくりちゃんが、相談相手に私たちを選んでくれたことがとても嬉しかった。友達のために自分が役に立てる日が来るなんて。こんなに誇らしくてくすぐったい気持ちになることも知らなかったよ。
「ありがとう、こむぎちゃん。
……じゃあ、百瀬先輩だけじゃなくて、こむぎちゃんにも……料理部の二人に改めてお願いするね。あのね、大きなハンバーガーを作って欲しいの」
「大きな」
「ハンバーガー?」
思わず、菓子先輩と顔を見合わせる。私の頭の中では「ぐりとぐら」のカステラみたいな大きいハンバーガーが浮かんでいた。



