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 放課後。調理室に集まった私と菓子先輩、連れてきたみくりちゃんは同じテーブルを囲んでおしゃべりをしていた。わきあいあいとした部活動、仲良しの友達と過ごす放課後。そのどれもが心をふわふわと浮き上がらせるものなのに、私は先ほどから殺気立っていた。

「こむぎちゃん、落ち着きましょ」

「……その男、許せない……」

 私はみくりちゃんの元彼氏だという、名前も顔も知らない男に怒りの炎を燃やしていた。

「だって! そんな理由で別れるなんてひどすぎます。みくりちゃんはこんなに素敵なのに……。私とも仲良くしてくれるくらいのいい子なのに……」

「そんな、照れるよ」

「こむぎちゃんは、御厨さんが大好きなのねえ」

 私が怒れば怒るほど、当のみくりちゃんと菓子先輩はなぜかほのぼのとした雰囲気になっていた。

「こむぎちゃん、その話は終わったことだから、そんなに気にしなくていいよ」

「だって、そのとき私はみくりちゃんとはまだ知り合ってなくて何もできなかったから……。だからかわりに今怒っておくの」

「その気持ちだけでけっこう嬉しいかも」

 みくりちゃんは中学のとき、同じ学校の男の子と付き合っていたらしい。男子バレー部と女子バレー部の部長同士だったという二人は、さぞかしお似合いだったのだろう。まわりもうらやむ爽やかカップルだったらしい。

 そんな二人も、三年に進級したある日、急に別れを迎えることになる。その原因が。

「その男にハンバーガーをぶつけてやりたい……」

「食べものを粗末にするのはダメよ、こむぎちゃん」


 そう、ハンバーガーなのである。