「ご注文は決まったかな?」

 ジャストタイミングで浅木先生がオーダーを取りに来てくれた。白シャツにギャルソンエプロンという出で立ちも私の心をくすぐる。

「私はこの、クラブハウスサンドをお願いします」

「私はアールグレイをストレートで」

「菓子先輩、飲み物だけですか?」

「ええ。家で夕飯を食べないと怒られてしまうの」

「菓子ちゃん」

 厳しいおうちなのかなと思っていると、浅木先生が急に硬い声を出した。

「サンドイッチなら食べられるだろ? どうせ家でもあまり食べないんだから、ちゃんと食べなさい」

「……はい……」

「……かぼちゃサラダサンドと、ポテトサラダサンド、どっちがいい?」

「ポテトサラダに決まっているじゃないですか」

「だよね。じゃあ作ってくるから。小鳥遊さんも、少し待っててね」

 私に向けた言葉は、変わらず優しい声だった。さっきの様子はなんだったのだろう。口調は厳しかったのに、浅木先生はいたわるような視線を菓子先輩に向けていた――。

「もしかして菓子先輩、ダイエットしているとかですか?」

「違うのよ。本当に、人よりちょっと小食なだけなの。先生は心配しすぎなのよ」

「でも……。そういえばスープのときも、菓子先輩は自分では全然食べていなかったですよね」

「自分で作ったものを人に食べてもらうのが好きなの。こむぎちゃんも心配しなくていいのよ」

 菓子先輩はにっこり微笑む。その笑顔はいつもと同じ穏やかなものだったけれど、「もうこの話はここで終わり」という突き放した冷たさがある気がして……。

 まだ人との距離の取り方がよく分からない私は、菓子先輩にそれ以上を尋ねることができなかった。