「ぜんぜんない。ただ、ちょっと久しぶりに寄りたくなって」

 こんなところに寄りたいだなんて、初対面のあたしに平気で話しかけてくることといい、やっぱりちょっとおかしな人なのだろうか。

「ていうか先輩、あたしみたいなタイプによく平気で話しかけられますね」

「え、そう? なんで?」

「髪は染めてるし、メイクもきつめだし」

「あ~、髪! きれいな色だなって思ったんだ。やっぱり染めてたんだね」

 ずるっと、力が抜ける。これで地毛だったらあたしは日本人じゃないだろう。この先輩は天然か不思議ちゃんなのだろうか。
 
 ――でも。この学校に来て初めてあたし自身のことを褒められた。それがなんだか無性にくすぐったくて、へんな気持ちだった。

「そういえば、うちの部に、あなたと気が合いそうな人がいるよ。見た目もちょっとだけ似てるかな」

 意外だ。この学校にも、あたしみたいな生徒がいるのか。少しだけ、会ってみたいなと思った。

「ねえねえ。どうせ暇なら、部活見学に来ない? ちょうど今、仮入部期間だし」

「はあ……?」

 うっかり出してしまった好奇心を見て取ったのか、先輩はまたしもずうずうしく提案をしてきた。すごんだ声を出しても引く様子はなく、あたしは逆に戸惑ってしまう。

「私、三年の小鳥遊こむぎ。料理部の部長なの。あなたの名前は?」

「あたしは……」

 おいしそうな名前の先輩は、にこっと笑ってあたしの手をつかんだ。


 その手は、びっくりするくらいあたたかかった。