「わ、私だってこむぎちゃんに内緒にしている間、つらかったのよ? 四月に入ってから、早く来ないかな~って毎日うずうずしていて……」

「そんなの知りませんっ」

「あ~あ。だから怒らせるって言ったのに」

 浅木先生が、オレンジフロートをさっとカウンターに置く。すっかりおわびの仕方もスマートになった浅木先生。たいていが浅木先生のせいじゃないのに、申し訳ない。

 私は菓子先輩を無視して席についた。

「こむぎちゃん……。怒ってる?」

「……オムライス、おごってくれたら許してあげます」

「ほんとっ?」

「ちゃんと卵がふわっとしたやつですからね! デミグラスソースたっぷりの!」

「うん、うん」

 菓子先輩が嬉しそうに厨房に消えていく。浅木先生がやれやれ、と肩をすくめながら私に微笑む。

 新入部員が入ったら、このお店を紹介しよう。素敵な先生たちと、ちょっとふしぎな先輩のこと。

 見た目は美少女なのに、中身はずうずうしいお母さんみたいで、でもあったかくてやさしくて、なんだかぜんぶが許せてしまうふしぎな先輩。

 魔法のようにおいしいものを作る先輩なんだよ、そのおいしいもので、たくさんの人をしあわせにしてきたんだよって。菓子先輩が解決してきたおいしい事件を、ひとつひとつ話して聞かせてあげよう。


 あなたは信じてくれるかな。

 菓子先輩の、おいしいレシピを。