「え、え、菓子先輩? なんで!?」

「ほら~、やっぱり。菓子ちゃんがこむぎちゃんに内緒にしておきたいって言うから、あんなに驚いてるじゃないか。かわいそうに」

 浅木先生が、いたずらが成功した子どものように笑っている。ちっとも「かわいそう」と思っているようには見えない。

「ごめんなさいね、こむぎちゃん。どうしてもびっくりさせたくて」

 私のそばに駆け寄ってきた菓子先輩は、少しふっくらして、お化粧もしていて、卒業式で会ったときよりずっときれいになっていた。

「どういうことですかっ」

「実はね、大学に入ってもバスで一時間以上かかる通学は無理そうで、一人暮らしさせてもらうことになったのよ。それで生活費くらいは自分で稼ぎたくて、浅木先生のお店でアルバイトさせてもらうことになったの」

「ちょうど、三月でアルバイトをやめる子がいてね。こっちが助かったよ」

「アパートもね、大学とお店の中間くらいに借りたのよ。高校からも近いから、いつでも遊びに来られちゃうわよ。気が早いけど、お客様用のおふとんやお泊りセットも用意しちゃったの。だから早くこむぎちゃんに泊まりに来てほしくって……、こむぎちゃん?」

 うつむいてぷるぷる震えている私の顔を、心配そうに菓子先輩がのぞきこむ。

「わ、私の感傷を、返せ~っ!」

「ええ~っ?」

 心の宝石箱がどうだとか、すてきな大人になったらどうだとか、恥ずかしげもなく語った感傷的なモノローグを、ぜんぶ、ぜんぶ、なかったことにしたい。