――三月。

 桃園高校卒業式は、あたたかな陽射しの春の日に行われた。校舎に植えられた桃の花が卒業を祝うように咲き誇っていた。

 祝花を胸につけた菓子先輩は、とても晴れやかな笑顔で、菓子先輩に憧れていたたくさんの後輩に囲まれていた。

 涙ぐむ後輩のお願いを退けて、私に第二ボタンと校章をくれたこと、ずっと忘れない。

 私と菓子先輩、みくりちゃんと柚木さん。料理部の四人で撮った写真はお気に入りの写真立てに入れて、私の部屋の一番陽当たりのいい場所におさまっている。


 菓子先輩が第一志望の国立大学に合格したことは、その後のメールで知った。

 春休みも、菓子先輩は新生活の準備で忙しいだろうと思って一度も会っていない。メールのやり取りも頻度が減って、校舎の桃の花も散ってしまった。こうして菓子先輩のいない日常は過ぎていくのだろう。

 きっとこれからも出会いや別れがたくさんあるのだと思う。そのたびに笑ったり泣いたりしながら、私たちは大人になっていく。
 どんなに嬉しい出来事も、悲しい出来事も、いつかは過去の思い出になって、ときおり取り出して眺めるだけになってしまうのだろう。桃の花が散ってしまっても、さびしいのは最初だけなように。


 それでも私は、菓子先輩と過ごしたこの一年間を忘れない。

 心の宝石箱のいちばん広い場所に、いつでも取り出せる場所に、たいせつにしまっておく。

 私がいつか菓子先輩みたいなすてきな大人になって、もし再会できることがあるのなら。こんなことがあったよ、覚えていますか、って、私の宝物を菓子先輩にも見せてあげたい。

 だからそれまで、少しのお別れ――。