「からい……? ような気がする……?」

「えっ」

「あと、甘い……? かもしれない」

「菓子先輩、味覚が……!」

「菓子ちゃん、味が戻ったのかい?」

「わ、わからない。ひ、久しぶりすぎて、感覚が追い付かなくて。でも、おいしい……と思う」

 菓子先輩と出会ってから、味に対するコメントを一度も聞いたことがないことに最近気付いた。それもそのはずで、だって菓子先輩は味が分からなかったんだから。

 だから、「おいしい」という言葉を聞いたのも、これがはじめてのことで――。

「う、う、う」

「ちょ、ちょっとこむぎちゃん、そんなに泣かれたら、わ、わたしもっ」

 歯を食いしばったまま涙と鼻水を流す私を見て、菓子先輩も大粒の涙をぼろぼろと流しはじめた。
 それを見ていたおばあちゃんも、菓子先輩を抱きしめながらおいおいと泣いている。

「よかった、よかったよぉっ……!」

 開け放たれた襖の向こうに、仏壇が見える。一瞬、写真の中の菓子先輩のお母さんが微笑んだ気がして、目をこすった。
 光の反射が見せた、錯覚だったのだろうか? 私はそれだけじゃない気がする。
 だって、この部屋に流れる空気も、光も、音も、全部がこんなにやさしさにあふれているんだから――。