「ずっと菓子先輩が治らなくてもっ、私がずっとずっと、菓子先輩の料理を味見しますっ……! ずっとそばにいるし、離れたりしませんっ! 菓子先輩よりも長生きだってするし、だから、だから……!」

 お母さんみたいに、菓子先輩の前から突然いなくなったりしない。菓子先輩が必要としてくれるなら、どこへだって飛んでいく。
 もうこわいことなんて何もないから。だからこれ以上、菓子先輩が苦しむ必要なんてないんだから――。

「こむぎちゃん……」

 菓子先輩の大きくてきれいな瞳から、涙が一粒、すうっとこぼれた。
 私がはじめて見た、菓子先輩の涙だった。

 菓子先輩は私の肩におでこをのせて、すん、と鼻をすすった。

「ありがとう、私……。ずっと誰かにそう言ってもらいたかった気がする」

 私はやっと、菓子先輩の止まり木になれたのかな。誰にも自分の内側を見せなかった菓子先輩が、安心して弱さを見せられる場所に、なれたのかな。

「今のままだって、ずっと、菓子先輩は私のいちばん大切な先輩です。だから……もう、無理に治そうとしなくてもいいです」

 菓子先輩の背中を優しくさすって、ああ、これで恩返しができたという切ない感傷にひたっていたのに――。