いろんな思いがぐるぐるして、菓子先輩の瞳をまっすぐに見つめられない。

 出会った日に感じた、菓子先輩の手のあたたかさ。ミネストローネがおいしくて泣きそうだったこと。学校に行くのが楽しくなったこと。放課後のピーチ通り探索、文化祭。

 私の胸にあるあたたかい思い出ぜんぶが、菓子先輩なしでは存在しなかったもの。

 最後に私が返せるもの。新しい人生を踏み出す菓子先輩に贈れる唯一のもの。それが今、私の手の中にある。

「私からの卒業祝いです。受け取ってくれますか」

 菓子先輩の目の前に、紙袋に入れたタッパーとナンを差し出す。

「これって……」

「改良したキーマカレーと、手作りナンです。この前は失敗しちゃったけど、今度は甘くできたんですよ。せんべつに……食べて欲しくて……」

「こむぎちゃん……」

 菓子先輩は、壊れやすいものに触れるように、ふわっと私を抱き締めた。

「ありがとうね。本当に、ありがとう」

 先輩の腕の中はあたたかくて、甘いお菓子のにおいがした。