「そうねえ。余裕はあるほうかもしれないけれど、将来は私一人でおばあちゃんとお父さんの面倒を見なきゃいけないじゃない? 残せるお金は残しておいたほうがいいと思うのよね、何かあったときのために」

 なんというか、横っ面を思い切りはたかれたような衝撃だった。二つしか歳の変わらない菓子先輩が、将来のことをここまで考えていたなんて。

「すごいですね……。私はそこまで考えていなかったな。なんとなく行きたい大学があるくらいで、学費のことや将来のことなんてあんまり……」

「うちは特殊だから、考えざるを得なくなっちゃうのよね。おばあちゃんもだんだん農作業が厳しくなってきているし……。大丈夫、こむぎちゃんはまだ時間があるじゃない。今は勉強をしっかりやって、志望校なんて受験するまでに決めればいいんだから」

「はい……。教育学部ってことは、先生になるんですか?」

「うん。家庭科の先生になりたくて。シェフやパティシエは私には無理だけど、やっぱり料理にはずっと関わっていたいから……」

 味覚のない菓子先輩にとって、料理人になるという夢は持てないものだった。きっと三年前に手放してしまったのだろう。さびしげな横顔に胸が痛む。

「桃園高校に入って、浅木先生や柿崎先生に出会って、教師になるっていう目標を持てたのよね。もう卒業かあ……。早いなあ」

「まだ卒業まで時間があるじゃないですか……」

「もうすぐ三年生は自由登校に入るし、クラスメイトや先生に心配かけるよりはこのまま休んで卒業式だけ出ようと思っていたの。出席日数は足りているし」

「じゃあもう、菓子先輩に学校で会えるのは、卒業式だけなんですね……」

「こむぎちゃん?」