「な、なんでまた」

「お見舞いの二回目に……。ごめんなさい、勉強のおじゃまでしたか?」

「ううん、嬉しいのよ。嬉しいんだけど……。髪はひっつめてあるし、てきとうな恰好しているし、なんだか人に見られるのが恥ずかしくて」

「そんなことですか。菓子先輩はちゃんとしてるほうですよ。私なんて上下スエットとか、中学時代のジャージとか、家でよく着てますもん」

「そ、そうね……。というか問題は、さっきまでうっかり机で寝ちゃっていて、口のまわりによだれの跡がついていることなのよね……」

 菓子先輩の顔の上半分が真っ赤になっている。私はこらえきれずに吹き出してしまった。それでノートで隠していたのか。

「見ないようにするので洗ってきていいですよ」

「もうっ。おばあちゃんも、先に一声かけてくれればいいのに」

 菓子先輩はぷりぷりしながら洗面所に消えていった。

 菓子先輩のいない菓子先輩の部屋。勉強机には問題集や参考書が広がっていて、この前来たときよりは家主の存在を感じられる。

 机に備え付けの本棚には、難関私立の赤本と一緒に、桃園高校と同じ市内にある国立大学の赤本も並んでいた。

「ふう、さっぱりした。少し寝たから頭も冴えたみたい」

 菓子先輩がタオルで顔を拭きながら戻ってきた。前髪が濡れておでこに張り付いている。

「菓子先輩、この赤本……。この国立大学が第一志望なんですか?」

「うん、教育学部をね。やっぱりお父さんやおばあちゃんは東京や県外の大学に行かせるのは心配みたいで。できればそこに受かりたいんだけど、どうかしらね~」

「菓子先輩なら大丈夫ですよ」

「ありがとう。奨学金をもらっても私立の学費は厳しいし、なんとかして国立に受からないとね」

「そうなんですか? 菓子先輩の家は、裕福なほうだと思っていたんですけど……」

 家は大きいし、家具や調度品もよくよく見ると質が良さそうなものばかりだし。
 何より菓子先輩から漂う、そこはかとない品の良さ。白いワンピースと麦わら帽子が似合っちゃいそうなキャラは、女子高でもそうそういない。