* * *

 ぴんぽーん。

 鍵が開いているのは知っているけれど、木村さんのようにあがりこむ勇気はまだないので、おとなしくチャイムを鳴らす。

「はいはい。ちょっと待ってくださいねえ」

 一度会っただけなのに懐かしく感じるおばあちゃんの声。と、ぱたぱた玄関を降りてくる音。

「はいどうも、お待たせしました……あらまあ?」

「こんにちは……。菓子先輩、まだお休みしているみたいなので、お見舞いに来ちゃいました」

 大きなタッパーをお土産に携えて、菓子先輩の家に二度目の訪問。

「あらあら、まあまあ。学校帰りに遠いところまで、ありがとうねえ。ばあちゃんもこむぎさんが来てくれて嬉しいよ」

 突然の二度目の訪問にも関わらず、おばあちゃんはしわくちゃの笑顔で出迎えてくれた。

「さあさあ、あがっていってねえ。菓子ちゃんは自分の部屋で勉強してるから」

「おじゃまします」

 昨日作って一晩寝かせたキーマカレーと、今日は手作りのナンも持ってきた。これもコピーさせてもらった菓子先輩のお母さんのレシピと同じ。
 フライパンでナンが焼けちゃうなんて最初は半信半疑だったけれど、出来上がったものはお店のものと遜色ない見た目と味だった。さすが家庭料理の魔術師。

「菓子先輩、おじゃましてます。小鳥遊こむぎです」

 菓子先輩の部屋の前で声をかける。

「えっ、こむぎちゃん?」

 驚きながら襖を開けてくれた菓子先輩は、ニットとロングスカートにはんてんを羽織っていた。
 なぜかノートで顔の下半分を隠している。